高校の古文でもおなじみの『大鏡(おおかがみ)』に、
こんな一節があります。左大臣時平伝より意訳。
筑紫で住んでおられた所は、門を固く閉ざしておりました。
大宰大弐(だざいのだいに)のいる官庁は遥か遠くにあるとはいえ、
不意に正門の上の瓦などが見える時もあります。
また、観世音寺という寺がすぐ近くにあるので、
鐘の音をお聞きになって、このような詩を詠まれました。
都府楼(とふろう)は わずかに瓦の色が見えるばかりで
観音寺は ただ鐘の音に耳を傾けるに過ぎない
この詩は、『白氏文集』で白居易(はくきょい)が
遺愛寺(いあいじ)の鐘は 枕にもたれて聴き
香炉峯(こうろほう)の雪は 簾(すだれ)を跳ね上げて見る
と詠んだ詩よりも優れていると、昔の博士などは申したものです。
「遺愛寺」の詩句は、中宮藤原定子の問いに対し、
清少納言がとっさに簾を巻き上げて庭の雪を見せた『枕草子』の
エピソードでも有名です。
道真が住んでいたのは、大宰府政庁の南方にある「南館」。
大宰府政庁の瓦は大量に出土しているようですが、
今回は鬼瓦のみ展示されています。
また、太宰府政庁のことを「都府楼(とふろう)」と呼ぶのは、
道真のこの詩に由来します。
「都督府(ととくふ)」(地方を統括する中国の役所)の
「楼」(たかどの)の意味です。
図録の解説によれば(41頁)、
彼が見た瓦の色は、まだら模様の灰色だったとか。
うわぐすりを掛けていないので、緑色ではないんですね。意外。
そして観世音寺は、規模を縮小しながらも現存しています。
境内に鐘楼があり、中に吊るされているのが、今回展示される鐘です。
(写真提供:九州国立博物館)
飛鳥時代、妙心寺(みょうしんじ)(京都市)の梵鐘と
前後して同じ工房で作られたものと考えられています。ともに国宝です。
しかも道真が聴いた鐘の音は、大晦日などに現在でも響いています。
過去の特別展では音色を録音して流した事もありますが、
今回は残念ながら「音の展示」はありません。
しかし、実は九博のサイトで聴くことができるのです。
何の迷いもなく澄んだ音に、ただ黙って耳を傾ける道真。切ないです。
存じませんでした。(^^;)
ご紹介ありがとうございます!!