重要文化財。防府(ほうふ)天満宮に奉納され、現在までそのまま伝わっています。
通常は境内の宝物館で展示するところ、
補修のため、現在は京都国立博物館に預けられています。
(写真提供:九州国立博物館)
ごくたまに京博の常設展に出るのですが、
肝腎の京博が年末から建替工事に入るため、しばらく一般公開はお預けです。
松崎本は物語が完結している上に色彩も良く残っています。
また、絵巻物の全集類に収録されているので、図書館で手軽に見る事ができます。
天神縁起は冒頭部分の言い回しで大きく4つに分類されます。
そのうち、承久本、あるいはそれに先行する文字のみの天神縁起(建久本・建保本)は、
王城鎮守神々多くましませど、北野の宮の利生(りしょう)殊に優れて、
朱(あけ)の玉垣に再拝する人、現当(げんとう)の願ひ、
歩みに従ひて道一念を致して、……
とあるのに対し、松崎本や弘安本(図録40、重要文化財)は、
漢家・本朝霊験不思議一にあらざる中(うち)に、
北野の天満大自在天神の御事、在世・滅後、奇特はなはだ多し。……
となっています。
前者の方が古い形ですが、
後者は縁起本文・絵の構図ともに定型化してこなれた形を持つため、
天神縁起絵巻の入門編として非常に向いています。
(写真提供:九州国立博物館)
10/26まで展示されていた弘安本の冒頭部。
図録ではなぜか最初の1行がカットされています。
さて今回展示されるのは、「紅梅殿別離」と「恩賜の御衣」という王道路線です。
大宰府下向を目前に控え、
軒端に咲く紅梅と山桜(もちろん桜の季節では到底ないのですが)に向かい、
右から左へ流れる絵巻のセオリーに逆らって画面左から右方向を見やる道真。
硯箱を前に、御衣を左に置き、袖で目頭を押さえる道真。
華やかな植物の描写とは裏腹に、どこか一抹の寂しさを感じさせる筆致です。