アメリカ・メトロポリタン美術館蔵の天神縁起絵巻より、異界巡歴譚の続きです。
太政威徳天(道真)に会った際、
道賢(どうけん)は「日蔵(にちぞう)」という名前を与えられます。
その後仏教世界を巡り、地獄の入口にたどり着きます。
(写真提供:九州国立博物館)
燃えさかる業火を前に、茶色の着物を着て合掌している山伏が日蔵。
頭や尾がいくつもある巨大な動物は、地獄の門番です。
さて、その地獄には出家したはずの醍醐天皇が堕ちていました。
衣装はいちおう身につけていますが、頭には何もかぶっていません。
頭にカブリモノをせず、もとどりを人目にさらすことは、
平安時代の貴族にとって非常に恥ずかしいことなのです。
後ろに従う3人の男性は、全裸なのか、すでに体中がすすけて誰か見当もつきません。
炎の中、醍醐天皇は日蔵に告げます。
「道真を左遷し、父親(宇多法皇)を裏切り、弟(真寂法親王=斎世親王)との仲を
裂いたことでこのような目に遭っている。
どうか息子(朱雀天皇)に写経をするよう伝えてほしい」。
現世に帰った日蔵は、このメッセージを朱雀天皇に奏上したのでした。
この物語、兄弟を殺して皇帝となった唐の名君・太宗(たいそう)が、
死後地獄に堕ちたという中国の説話を元に作られた話と言われています。