17万人超えていました 

総入場者数について、西日本新聞のサイトには現時点でも掲載されていませんが、
紙面には記載があったようで、確認された方からメールを頂きました。
約17万5000人との事。

11/26の15万人突破から4日間でこの伸びですから、
会期終了間際に駆け込み組が大量発生した模様です。

国立文化財機構のサイトに過去の特別展に対する評価結果が載せられていますが、
今回の入場者数は過去にクリアしたことのある数字だったようです。

 ・「うるま ちゅら島 琉球」(2006/4/29〜6/25)     177,478人
 ・「本願寺展 親鸞と仏教伝来の道」(2007/9/22〜11/18) 197,697人
 ・「京都五山 禅の文化展」(2008/1/1〜2/24)      171,336人

ちなみに一番凄かったのは、コレ。

 ・「プライスコレクション 若冲と江戸絵画」(2007/1/1〜3/11) 300,171人

なぜか目標5万人と低く見積もっていましたが、やっぱり若冲は若者に強いですね。
会期中に太宰府天満宮の社務所で
「(招待券をもらっても)1時間で見られないので、やめておきます」と断ったら、
「錦の八百屋嫌い」のレッテルを貼られた苦い思い出が……。

事実はむしろ逆で、琳派好きゆえに消化不良を起こしたくなかったんですよ〜。


(2009/9/28追記)
その後、「国宝 阿修羅展」(2009/7/14〜2009/9/27)が、
710,138人とあっさり記録を塗り替えました。

安いパックツアーが取れなくてパスしましたが、
むしろ「行かなくて良かったな〜」と思っている自分がいます。

特別展の図録 

殺人的な重量で話題を振りまいた過去の特別展図録に比べ、
今回は良心的な(あるいはまともな)重量となっています。価格は1冊2000円。

特別展図録の厚さ比較


左側が「国宝 天神さま」(238頁)、
右側が上から「北野天満宮神宝展」(298頁)と「天神さまの美術」(366頁)です。

図録の厚さを測ったところ、実測値として次の数値が得られました。

 ・『国宝 天神さま』 1.9cm
 ・『北野天満宮神宝展』2.35cm
 ・『天神さまの美術』 2.8cm

ページ数の差には出品点数も影響しますが、むしろ解説や論文の量に左右されるようで、
『天神さまの美術』はカラー図版に伍するほど活字のページが入っています。

特別展「国宝 大絵巻展」の図録を読んだ時、これは欲しいと思いました。
その理由がコラムの本数と折り込み図版の多さ。
通常の特別展図録に比べ、明らかにページ数は少ないのですが、
縦長であるべき図録をわざと横長に倒し、
長い用紙を折りたたむことで、より長い画面を1面に収める事に成功しました。

横長の用紙を巻きながら読む絵巻物の特質を踏まえ、
なるべく多くの画面を収録しようとする試みでした。
画面をぶつ切りにし、ハイライト画面を抜粋して拡大する従来の方法には、
全体の流れが分からない問題点があるのです。

今回もこの手法が継承され、承久本は折り込み式で掲載しています。

紙の作品目録


写真は折り込み部分を完全に開いたところ。左右4ページ分ずつあります。
脚立がないと撮影できないほどの幅でした。

コラムは学芸員を中心に、一部外部の研究者が担当。
1テーマ1ページでさらっと読めるように、うまくまとめてありました。

論文については、あまりに執筆者の顔ぶれが手堅すぎて
新鮮味や面白みに欠けるきらいがあります。
新事実の発見や新見解の表示より、過去の議論を敷衍している印象を受けました。

さて問題は、2000円払ってまで買う価値があるのか? という事。
図録は図書館になかなか入らないことを考えると、
専門家なら中古であっても買うことになるでしょう。

普通の人の場合、絶対買えと言い切るには活字部分がもう少し欲しい気がします。
コラム読んで写真眺めてで終わり、というのはあまりに寂しいものです。
この点では、最近吉川弘文館から出た『北野天神縁起を読む』をお勧めします。


(2008/12/5追記)
 この図録、12/1の時点で既に完売になっていたようです。
 まさかとは思いますが、会期中に売り切れてしまったんでしょうか……?
 11/24に知人に頼まれて1冊購入した時は、まだ余裕があるように見えました。

 何年か経ったら、ネットオークションや古書店へ流れるのが常ですから、
 こうなってはその時まで気長に待つしかないですね。
 あとは県立図書館あたりを探してみるとか。

(2009/7/4追記)
 試しに検索したところ、すでに古書店に出ていました。
 ただ、定価の倍近くという値段ですので、店名を挙げるのは控えておきます。
 1500円前後でしたら、買いかなとは思うのですが。

特別展、無事終了です 

本日17時をもって、特別展「国宝 天神さま」は無事終了しました。
当初の心配とは裏腹に、大盛況だったようです。
最終の入場者数については、明日の「西日本新聞」に出ると思いますが、楽しみですね。

スタッフの皆様、お疲れ様でした。(←明日からの撤収作業の方が大変だと思います。)

今回の展示で判明したこと。

 ・道真が九州に2年間しかいなかった事は、案外認識されていない
 ・福岡県民は福岡市天神地区がなぜ「天神」なのか知らない
 ・九博の特別展は「左から入って右へ出る」会場設営が常識だった
  (閲覧ルートが時計回りとなり、巻物とは反対方向の動線になるのですが、
   今回右に入口を設けるまで、問題視されなかったらしい……。)

勝因として、今思いつくまま挙げてみると、

 ・福岡有数の観光地である太宰府天満宮の隣で祭神にちなんだ展示を行った
 ・西日本新聞と西日本鉄道(特に後者)の強力なPR作戦
 ・県内の小学生に無料入場券を配り、保護者の来訪を促した

あたりが考えられますね。
個人的には福岡県内のみならず、山口や九州北部を巻き込んでみたかった感はあります。

さて、会期終了にともない、このブログも一旦終了……のはずでしたが、
まだ書き残している事がありますので、もう少し落ち穂拾いが続きます。

道真展の歩き方(2) 

特別展の会場は、現在このような順番で構成されています。

 ・エントランス …観世音寺梵鐘・荏柄天神の雲中天神像
 ・第1室 …平安時代に関する文字史料
 ・第2室 …承久本・メトロポリタン本・松崎本などの天神縁起絵巻と遺品類
 ・VTRコーナー
 ・天神さま研究所
 ・第3室 …天神縁起の絵巻・屏風・掛幅
 ・第4室 …天神像・渡唐天神像・観音像・仏塔
 ・第5室 …お祭りで使っていた獅子頭や面・連歌懐紙・文楽人形・浮世絵
 ・第6室 …神輿

一番混雑するのは、展示の目玉となる絵巻が揃っている第2室です。
ここから見ようとすると、
朝9時30分の開館に合わせて入らない限り、行列になるでしょう。

そこで午後から入館した場合の効率的なモデルコースを紹介します。
特別展に行っていなかった地元の知人を案内するために
会場内で即座に考えたものですので、実証済みです。

まず手荷物は、鉛筆とメモ帳程度を残し、1階のコインロッカーに入れます。
衣類だけでしたら1階のクロークに預けます。
必要に応じて当日券を購入し、エスカレーターで特別展会場へ。

まず観世音寺の梵鐘荏柄天神の雲中天神像を見たら、
人の多いエリアを抜け、そのまま一気に第4室へ。
天神画像道明寺の十一面観音、御自作天満宮の天神座像や大興善寺の十一面観音、
渡唐天神像と、ひととおりじっくり眺めます。

そして歌舞伎や連歌に特別な関心のない限り、第5室はさらっと流しましょう。
芝居絵でもそんなにインパクトのあるものは出ていませんし、
文楽人形も普段から北野天満宮の宝物殿に展示されています。

この後第3室に戻り、扇面屏風と掛幅を見ます。
天神縁起の全体像を知らないと到底読み解けないので、見るだけで大丈夫です。

VTRは好きに応じて、または休憩目的で。
知人は元のテレビ番組を見ていたので、省略しました。

仲間同士で茶々を入れて楽しみたいなら、その足で隣接する天神さま研究所へ。
貼り出されている紙を読み出すと際限がないので、軽く眺めるだけにとどめ、
パソコンの上のホワイトボードや本棚等、web上では見られないものを見ておきます。

ここまで来て、いよいよ本題です。第1室に戻りましょう。
菅家文草菅家後集新撰万葉集和漢朗詠集を見ておきます。
基本的に文字(特に漢字)ばかりなので、予備知識がないと辛いかもしれません。

そしてお待ちかね、天神縁起絵巻尽くしの第2室です。
ガラスケース越しに革帯・笏(しゃく)・櫛・鏡といった遺品類を見ながら、
人が少なくなった頃合いを計り、行列に加わります。

承久本メトロポリタン本松崎本の3つを見ておきましょう。
非常に長々と展示されています。

これで一通り見終えた格好になります。
残りの時間を利用し、もう一度見ておきたいものにじっくり向き合いましょう。

最後に、博物館や美術館で使いたい、ちょっとしたテクニックを。
通常、閉館の30分前に入場受付が閉まります。
そのため、数分後には最初の方の部屋ががら空きになります。
残り時間が少ないので、どうしても見たいもの以外を先に見ておく必要はありますが、
絶えず行列のできていた承久本も、恐ろしくスムーズに見られますよ。

道真展の歩き方(1) 

11/22〜24の3連休は1日数千人が来場したそうで、26日に15万人を突破したとの話。
最終的には16〜17万人になる見込みです。見事に大盛況に終わりそうです。

しかしその反面、会場は少なからず混雑しています。
そこで今日から2日連続でお送りするのは、「会期終了間際における道真展の歩き方」。

まず事前に用意して頂きたいのが、作品目録と充分な時間。

もともと作品目録は会場内に山積みになっていましたが、見事にはけてしまいました。
そこで九博のサイトでPDF版目録を印刷しておきましょう。
ノンブルを見ると10ページあるように見えますが、実際は5ページです。
途中で切れているわけではありませんので、ご安心を。

ちなみに紙版ではデザインが異なり、4ページで構成されています。
最初のページは表紙なので、目録部分は実質3ページです。

紙の作品目録


そして観覧に要する時間ですが、

 ・特別展のみ  … 2時間(混んでいなくても1時間では厳しいと思います)
 ・常設展も見る …+1時間(再訪やピンポイントの場合。腰を据えるなら2時間)
 ・売店やあじっぱにも寄る   …+0.5〜1時間
 ・グリーンハウスで食事    …+1.5時間(昼食時は満席になります)
 ・太宰府天満宮にもお参り   …+0.5〜1時間(普通は寄りますよね?)
 ・太宰府天満宮の宝物殿にも寄る…+0.5時間

と、オプションをつけることで簡単に半日、下手をすれば丸1日つぶれます。
そうなると、事前の取捨選択が非常に重要になってきます。
最低限の組み合わせは、「特別展+天満宮(+宝物殿)」の3〜4時間コースでしょう。

明日は特別展会場内を効率的に見て回るための順番についてです。

天神さま研究所(その2) 

もう1枚、小さいホワイトボードには、
チラシと特別展のイベントを記入したカレンダーが貼り出され、
余白に研究所職員の予定が書き込まれています。

よく見ると、これがなかなか遊んでいる箇所なのです。

職員の顔ぶれは、「松王丸」「梅王丸」「桜丸」。
彼らの今日の行動予定が書き込まれています。
『菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)』の3兄弟、
こぞって奉公先が没落したと思ったら、
こんなところで再就職してたんですか……(笑)。

車引の芝居絵

(写真提供:九州国立博物館)


『菅原伝授手習鑑』車引の芝居絵より、左から三男桜丸・長男梅王丸・次男松王丸。
梅王丸の背後に立つのは、左大臣藤原時平(しへい)です。

腰掛石の調査がどうのこうのというメモ書きを発見。
学芸員さんいわく、
「山陽道の菅公腰掛石をたどれば、
 通ったルートが分かるのではないかと思うんですが」とのこと。
山陽道の道真ゆかりの地を踏破したラジオパーソナリティ、
馬場章夫(ばんば ふみお)氏に聞いてみるのはいかがでしょう?

その下には、「道真の趣味は菊作り ←確定!」なる記述が。
実はコレ、当初はなくて後から追加された書き込みなんです。
道真さんが履歴書を書いたら、趣味の欄は「庭いじり」だと私も思いますが、
これを書いた人は、最初彼の白菊愛好癖を知らなかったのではないでしょうか。
会期途中で知ったとしたら、ひどくコアな情報を拾われたものです。

妙なマネキンが一体、奥のパソコンに向かっています。
首から下げたIDカードには「名誉所長」の文字。
紫の朝服(ちょうふく)なので、どう見ても彼は道真さん。
本職の所長ではないのに、毎日出勤しておられます。

天神さま研究所

(写真提供:九州国立博物館)


触っても良いとの事でしたので、
「この衣装どこから調達したのだろう?」と不思議がりながら、
ペタペタ存分に触ってまいりました。

等寸大だけに、「会期終わったら貰えないかな」と、不遜にも思う今日この頃です。
(いや、おそろしく場所取りますって……。)

天神さま研究所(その1) 

展示第1室の突き当たり、映像コーナーの奥にある白い空間が、
「天神さま研究所」。勝手に「ラボ」と呼んでいます。

室内の設備はパソコン3台、本棚2つ、ホワイトボードが大小合わせて3枚。

天神さま研究所

(写真提供:九州国立博物館)


パソコンでは古代の星空や太宰府天満宮の祭礼が動画で流れています。
本棚には『古事類苑(こじるいえん)』のような専門書から、
一般向けの軽い本まで。一部は手に取って読めるようになっています。
入れて欲しい本をいくつか挙げておきましたので、
反映されている可能性はあります。

大きいホワイトボードには、
一般から募集した天神社関係の投稿記事が貼り出されています。
開催前から募集していますが、掲示枚数は日々増えています。

ただ、素人さんが書いているので、
内容が薄かったり、明らかに間違えているものもあります。

「学芸員できちんと調べろよ!」という厳しい意見が
某掲示板で出ていましたが、確かにそれは言えてますね。
話題作りには充分なっていますが、
特別展を見る時の参考になるかと言えば……、難しいところ。

天神さま学習帳 

特別展会場で小学生に無料配布されているガイドブックがあります。
その名もズバリ「天神さま学習帳」(!)。

B5版フルカラー、全20頁。
表紙はジャポニカ学習帳のパロディー、
中身はスクラップを貼り込んだA罫大学ノート風です。

天神さま学習帳の表紙


道真の略歴・絵巻のトピック別解説・福岡県の天神社折り込みマップの3部構成。
絵巻のページはポップで面白いですよ〜。

「九博界隈」に登場した時点から密かに狙っていたところ、
内覧会で学芸員さんから頂いてしまいました。
もっとも、これは個人的な役得(誰彼構わず配ってる訳ではなかった)で、
部数に限りがあるので、原則として子供を連れて行かないと入手できません。

とは言うものの、実はコレ、大人にもすこぶる評判が良いのです。
300円程度で有料頒布しても、買い手がつくでしょう。
福岡市立博物館の時は、文字通りの「小」冊子でしたから……。

せめて「Asiage」のように、PDF版があれば喜ばれますね。
本音を言うと、著作権の問題さえクリアできれば、
絵巻ネタの部分をスキャナーに掛けて紹介したいくらいです。


(2009/4/14追記)
九博から送付されたのか、全国各地の県立図書館に現物があるようです。
また、国際子ども図書館(東京国立博物館の近所)にもあります。

現物をご覧になりたい方は、地元の図書館で取り寄せ(と館内閲覧)を
依頼してみてはいががでしょうか。

家政婦は語る!? 

音声ガイドは日本一有名な家政婦……ではなく、市原悦子さんです。
菅原家の内幕を暴露するわけではないので(笑)、
日本昔話をイメージして聞いて下さい。

承久本「北野天神縁起絵巻」や道明寺の十一面観音立像(両方とも国宝)など、
有名どころは物語調で、説明も少し長めです。
話のネタに借りてもよいのではないでしょうか。

しかし、「18歳で難関の国家試験に合格し」というのは、
「26歳」の間違いではないでしょうか?(原稿の問題)
18歳での文章生(もんじょうしょう)選抜試験合格は最年少タイ記録ですけれど、
26歳で受験・合格した方略試(ほうりゃくし)は
「約230年で道真含めて合格者65名」という難易度を誇りますから。
しかも漢文による論文試験。

試験問題・解答・評価の3点セットが揃う貴重なケースなのに、難しくて読めません。

それなのに試験官に論理展開の甘い部分や誤字を指摘され、
道真さんは少なからず不機嫌になったのでした。(これはホントの話)

天神さま検定 

色モノの一環として、「天神さま検定」が会場内に掲示されています。

天神さま検定・問題と解答

(写真提供:九州国立博物館)


3択全10問。そんなに難しいものではない……かな?
「和歌」を「俳句」と書いていた箇所があったので、訂正してもらいました。
地元民でもないのに、天拝山の標高を即答できる自分がイヤだ。

どういう訳か、解答まであちこちにあります。
問題見てすぐ答え見る流れは、試験本番ではありえない話ですよ〜。
展示品を良く良く見れば解答が分かる、という問題設定が理想なんですけどね。

全問正解で「右大臣」。
「え、『贈太政大臣』じゃないの?」と本気で思いました(笑)。

確かに生前は右大臣止まりでしたけれど、
没後に怨霊慰撫対策で官位の追贈が繰り返されたので、
最終的には最高位の正一位太政大臣にまで達しているんですよ。

3問以下ならさしずめ「文章生(もんじょうしょう)」でしょうか。

巨大絵馬の話 

会場入口右横にある巨大な絵馬は、
事前に西鉄が「みんなの願いが大きな絵馬に」と題して写真を募集し、
寄せられた写真の色調をいじってコラージュしたものです。

西鉄による巨大絵馬


下絵は太宰府天満宮の定番・板絵菅公像。原画は10/19まで会場内に展示されます。

板絵菅公像

(写真提供:九州国立博物館)


確かプレゼント当選者は顔と願い事の内容をネットで公開されるという
厄介なオプションがついていたはずですが、どうなったんでしょうか?

人生が、国宝だ。 

特別展のタイトル「国宝 天神さま」は芸がないと発表当初から感じていますが、
キャッチコピー「人生が、国宝だ。」は秀逸だと思います。

実際に使っていた物は国宝だし、(それだけ貴重な物が残っているという事ですね)
伝記を描いたら絵巻は国宝になっちゃうし、      (保存状態が良いから?)
しかも祀られている北野天満宮の建物まで国宝だし。(太宰府天満宮は重要文化財)
看板にウソ偽りはありません。しかも簡潔。

「国宝」を冠したのは、
「国宝がないと客が来ない」という博物館の悲しいセオリーに加え、
「国宝 大絵巻展」の成功も大きいのではないでしょうか。
大好評を博した京都国立博物館の特別展「大絵巻展」とは一応別物ですが、
京博の所蔵・寄託品を一気に展示してみせました。それで動員12万人。
続く「島津の国宝と篤姫の時代」は大河ドラマ効果で15万人。
いわば「国宝シリーズ」3匹目のドジョウ……?

パッと見てパッと分かる、そういう都合の良いものが多くないのがネックですが、
今回登場するのは、国宝18点(図録に従い、承久本の外箱を1点と計算)、
重要文化財21点。
中には「別にこれまで出さなくてもいいかな?」と思うものもあります。

特別展全般にいえる話。
独立採算制を求められるようになって、巡回展が減ったように思います。
これは本当に観客泣かせで、現地遠征か断念かを迫られます。
正直な話、ほとんど後者を選んでますね。場所の問題は非常に強力です。

最後は愚痴っぽくなってしまいましたが、
「一通り見たけど、予備知識がないから良く分からなかった……」と
言われないために、頑張って紹介記事を書いていきたいと思います。

開会式のことなど 

開催前日、9月22日午後2時より開会式と内覧会がありました。
太宰府天満宮にワガママを言って、招待状を出して頂きました。(感謝!)
平日なので仕事もありましたが、前々日夜にどうにか許可が下りました。

開始直前に駆け込んだところ、会場はスーツ姿の人だかり。
内覧会もなかなか人が減らなかったので、参列者は本当に多かったようです。

写真撮影のために随分前へ行ったんですが、それでも前の人の頭が入ってしまいます。
特に邪魔だったのがテレビ局2社(テレビ西日本・九州放送)の取材クルー。
スーツ姿なのは良いとして、九州国立博物館・太宰府天満宮・西日本鉄道・
西日本新聞の主催4法人代表が挨拶に立つところが全っ然見えませんでした。
早くに行ってもこれかと思うと、何だか複雑です。

宮司さん、「九州国立博物館建設は西高辻家4代の夢でした」という話になると、
あいかわらずボルテージが上がります。
そして実年齢(54歳)からますます乖離してゆくように見えました。
(どこを見てるんだ、どこを!)

そしてテープカットを前に、スペシャルゲストの御登場。
文楽人形遣いの吉田玉女(たまめ)さんと菅丞相(かんしょうじょう)です。
BGMは「菅原伝授手習鑑」道明寺の義太夫。(シブい……)
観客のどよめきを期待してたんですが、皆様オトナでした。

この趣向、実は前例があるのです。2001年11月1日、大阪市立美術館。
特別展「天神さまの美術」の開会式。
当時在籍していた学芸員が展示会場の2階を縁起絵巻一色にしたツワモノで、
今は亡き人間国宝・吉田玉男さんを招き、当たり役だった菅丞相でテープカット。
そして梅ワインで乾杯。玉女さんは彼のお弟子さんです。

ただ、これは大阪だから出来た技なんですね。
人形の操作は3人がかりなので、交通費もそれだけかかります。
国立文楽劇場のお膝元なら、謝礼を中心に考えれば済みますから、
今回の件は、思い切った話題作りだと思います。

開会式のテープカット
(左より 西高辻信良宮司・三輪嘉六館長・吉田玉女さん)
※お三方とも、関係者を通じて掲載許可を取っています。


かくして、九州の地でご先祖さまとその子孫が一緒にハサミを入れるという、
摩訶不思議な光景が実現したのでありました。

見知った神職さんがほとんどいないことが気になっていたんですが、
全国天満宮梅風会(全国の天満宮で構成される組織)は、
共催でも後援でもなく「特別協力」の扱いになっていました。
地元の関係者を中心に招待状を出しているのかも知れませんね。

この様子は、九博のブログ「九博界隈」に動画で公開されています。
人形を遣いながらハサミを使う難題に、
玉女さんが悪戦苦闘しているのが良く分かります。

観覧者1万人達成 

九博によれば、本日、特別展の観覧者が1万人を超えました。
ちょうど1週間が経過したところです。
残すところ、あと10週。何とか10万人は確保して欲しいですね。

阿古君、菊に囲まれる 

だざいふえんの手前に博物館へのエスカレーターの入口がありますが、
子供時代の道真(阿古(あこ))が短冊を手にたたずんでいます。
周囲にはプランターに植えた大量の菊。

菊に囲まれて立つ阿古少年


道真は梅好きで有名ですが、実は菊や竹も好きなんですね。
特に菊は「若い頃から好きだった」と自分でも認めているので、
季節柄ではなく、高度なシャレかと思いました(笑)。

背後から見た阿古少年


和歌でも書いてあるかと期待して、背後からのぞいてみると、
短冊は真っ白の勧進帳状態でした(笑)。

展示室はこんな感じです 

エントランスは、正面が承久本を使った金色の巨大パネル。
手前左が土産物屋。右がコラージュ写真を使った巨大絵馬。

特別展会場の入口


入ってすぐのアイキャッチは、観世音寺の梵鐘でした。
鐘の音を流す事は、音声ガイドを含めてやっていません。

さて、配列をざっと書き出すと、こんな流れです。

・道真とその時代に関するもの
・女性講談師・神田紅がナビゲートする道真の生涯を紹介するVTR
 (9/23にテレビで放映された30分番組のダイジェスト)
・観客の側から寄せられた情報を掲示する「天神さま研究所」
・天神縁起絵巻
・束帯天神
・渡唐天神
・十一面観音などの仏教関係
・連歌資料
・歌舞伎を中心とする江戸時代の出版物
・太宰府天満宮と防府天満宮のお祭りにちなむもの
・最後に太宰府天満宮の神輿

展示目録の順番とは必ずとは一致しません。
絵巻の所まで来て、「道真の遺品類を見ていない!」と気がつき、
慌てて戻ったものの見つからず、元の場所に戻ると、
さっきの絵巻の背後にあった、というオチが……。

特別展会場・展示第2室

(写真提供:九州国立博物館)

(中央の椅子みたいな物体が展示ケースで、中に遺品群が入っています。)


あと、完全一方通行の構造ではないので、人によっては途中で道に迷います(笑)。

入館状況 

絵巻物に強い横長の展示ケースを有する九博らしく、
ひとつの絵巻物を2〜3シーン開いていることがあります。
同じものを続けてじっくり見られるのは便利ですね。

初日の人の入りは、まずまずと言ったところ。
断続的に入場する光景が見られました。
特別展狙いで来たのかと思いきや、寄ったら偶然やっていた、という人も。
幸い、人の流れに乗って見るしかない混雑ではなく、
自分のペースで見ることができます。

1Fエントランス

(1階エスカレータ手前の光景。左半分を占める物体については、後日取り上げます。)